いつもみんなが集まる居酒屋のドアを開ける。 あいかわらず、繁盛している。 このガヤガヤと五月蝿い雑然とした、雰囲気が大好きだ。 焼き鳥を焼いているマスターが、私に気付いて声をかけてくれる。 「よう、美崎ちゃん待ってたよ。今日誕生日なんだって?おめでとう!みんな奥の座敷にいるよ。」 「ありがとう。サービス期待してるからね!」 「美崎ちゃんには、かなわねえなあ。」 と、ガハハッと笑った。 人波をよけ、個室の座敷に向かう。 みんなの声が聞こえてきた。 靴を脱ぎ、障子を開ける。 「遅れてごめん。」 一斉に「遅い!」と声が上がった。 もう、出来上がっているのもいる。 まあ、誕生日にかこつけて呑みたいだけだしね。 そこには、5人の女友達がいた。 みんな学生の頃からの、友人だ。 私のビールが届いたら、今回の幹事である明美がグラスを持ち、その場に立った。 「では、無事に美崎のビールも来たことだし。美崎、30歳の誕生日おめでとう。乾杯!」 「「「「「かんぱ〜い!」」」」」 カチンと、グラスがなった。 その後はいつも通り、仕事や、家庭、子供のグチで盛り上がった。 私と明美以外は所帯持ちなので、22時にはお開きになり、帰っていった。 「じゃ、美崎。奢ってあげるから一件だけ、この後付き合って。ね?」 「・・・・・男紹介されても、その気にはならないよ。」 「分かってるってっ!今回のは取っときの、友達だから。」 ・・・やっぱ、男じゃん・・・。 明美はバツイチだ。 結婚はもうコリゴリだけど、彼氏は欲しい。 ついでに、私にも紹介してあげる♪、といって色々と紹介してくる。 ・・・いい加減諦めてくれないかな。 明美は携帯を取り出し、何処かへ連絡していた。 「うん、今終わったの。今から行くから。・・・もちろん、大丈夫だって。じゃ。」 話終わると私に向かって、ニヤッと笑った。 明美さん、その笑顔なにか怖いんですが・・・。 電車で移動して、着いたのは私が利用している駅の一つ手前だった。 「この間、発見したの。なかなかいいお店ができてるのよ。」 明美に連れられて行った店は、路地裏をくねくねと入って行く、駅から10分ほどのバーだった。 駅に近くて、こんな隠れ家的なところがあろうとは、ちょっとビックリした。 少し寂れた感じのたたずまいが、いい雰囲気をかもし出している。 明美と共に店内に入ると、カウンター内にはバーテンが三人。 客はちらほらといるが、圧倒的に男性が多かった。 一番奥まったソファーに座っている男性の下に、明美が歩いていくので付いていく。 「おまたせ〜。やっと、連れてきたよ〜」 「遅いよ〜、待ちくたびれたよ。」 「でも、許したる。彼女に免じて。」 そう言って私に向かって、笑った二人は・・・。 「美崎、大丈夫?とりあえず座って。ほら、お水。」 明美に渡された水を一気に飲み干す。 改めて、明美が紹介してくれた。 「こちらが、私の友人の坂下美崎さん。で、この二人が神埼潤さんと有川忍さん。・・・美崎〜、どうした〜?」 明美がニヤニヤしながら、私の顔を覗く。 この・・・・悪魔め!きっと、私の顔は真っ赤になっていることだろう。 だって、目の前にあの「ブルーカラーズ」が、微笑んでいるんだもの! 何もしゃべれないよ! 「あれ〜、俺たちのファンだって聞いたんだけどな〜。」 と神埼潤。 「もしかして、俺たちだって気付いてないのかなあ〜?」 と有川忍。 二人とも、私の反応で遊んでいるのは確かだ。 やっと言えた言葉は、 「ど・・どうして?」 だった。 「ビックリしたでしょう〜?私もビックリしたもん。でも、世の中って狭いよね〜。潤ね、私の従兄弟なの。」 「・・・は?」 従兄弟ってあの従兄弟? 「知ったのは半年前なんだけどさ。私って、アイドルとか興味ないじゃん? だから、親も言わなかったのよねえ。半年前にさ、従兄弟会を10年ぶりにやろうってことになってさ。 で、そこに休みだからって、潤が現れたのよ。 私は、15年ぶりくらいに会ったんだよね〜。そこで、初めて知ったんだけどさ。ビックリでしょう?」 そういって、カラカラと笑った明美。 「・・・ビックリだけど、アイドルの前で興味ないって、言い切るのはちょっとどうかと・・・。」 「あ、やっぱし?」 それでも、悪びれずに笑っていた。 「明美は本当に、あいかわらずだからな〜。もう少し驚くとかさ、女らしいリアクションがほしいよ。 この美崎ちゃんみたいにさ。忍も、そう思うだろう?」 「まあ、珍しい反応であることは確かだけどね。」 忍は苦笑していた。 それから、やっと慣れてきた私を含め、4人で話し込んだ。 携帯の番号とメアドをそれぞれ交換して、サインまでしてもらった。 本当に、明美さまさまだった。 「明美ってさ、昔からこんななんだよね。色々と辛いこともあったけど、こいついい奴だからさ。 これからもよろしくね、美崎ちゃん。明美が信用した人だから、俺らも信用できるんだ。 だから、俺らとも友達になってね。いつでも、メールと電話まってるからね。」 そう言い切る潤に、うなずく忍。 二人の笑顔がまぶしいよ。 「そう言ってもらえると、すごく嬉しい。私も、貴方たちと友達になりたい。 じゃ、遠慮せずにメールとか、じゃんじゃんしちゃうからね。おばさんのパワーは、凄いんだから!」 そういって、笑いあった。 0時を過ぎた頃、お開きとなった。 二人は、車で来ているということで、一滴もアルコールを飲んでいなかった。 駐車場に向かう途中、明美に小声で話しかけた。 「明美、今日は本当にありがとう。最高の誕生日プレゼントだったよ。一生忘れないから。」 「うふふ、美崎可愛いなあ、ほんとに。・・・タクヤくん、忘れられそう?」 心配そうに、見つめてくる明美。 「それは・・・どうだろう・・・。でも、二人は今までの位置ではないから。 きちんと、男性として見えていると・・・思うから・・・。少し、何かが変わったと思う。」 「その言葉が、すごい嬉しいよ。美崎も前を向いて、いこうね。」 そういって笑った明美の瞳に、涙がにじんでいるのが見えた。 本当に心配かけていたんだね。ごめんね。 そして、ありがとう。 やっと、足が一歩前に出たかもしれない。 いつの間にか、止まって話し込んでいた私たちに、痺れを切らして潤がやってきた。 「どうした〜?かえらんのか〜?」 「ごめん、帰るよ。」 「何、話していたの?」 「内緒。潤には、教えてあげないよ。女の話ですから。ね〜美崎。」 「そ、内緒。」 二人で、ふふふっと笑みがこぼれた。 「なんだよ、ケチだな〜。まあ、いっか。あ、美崎ちゃんは忍の車に乗ってね。奴が送ってくから。」 「え?すぐそこだから、大丈夫ですよ。いくらなんでも、悪いわ。」 「いいの、いいの。忍はその気だからさ。それに、こんな時間に、女性の一人歩きは危ないでしょう?」 「もう、三十路なので、女性ってのは・・・どうかと。」 「いいから、ほら乗った。」 潤に忍の車の助手席のドアを開けられ、押し込められる。 「じゃ、美崎ちゃん気をつけてね。ちゃんと、メールするように。忍よろしくな。 じゃ、おやすみ、今日は楽しかったよ。また。会おうな。」 そう言ってドアを閉められた。 「ごめんなさい。すぐ近くなんでお願いします。」 そういいながら、シートベルトを締める。 外では二人が手を振っている。二人に振り返していると、車が発進した。 |