昔、陽が暮れるまで一緒にあそんだ男の子。 どこに住んでいるのかも知らなかったけど、原っぱに行くといつも待っていてくれていた。 私の顔を見るとニコニコと、笑顔で迎えてくれた、少し年下の男の子。 名前は確か「タクヤ」くん。 病気がちで、なかなか友達の出来なかった私に初めて出来た友達。 体の弱い私に付き合って、花をつんだり、蝶々をみたり、いつも一緒に過ごしてくれた。 本当に本当に、大事だった友達。 でもそれも、私が12歳の時に終わってしまった。 タクヤくんが、引っ越すことになったからだ。 最後に会ったのは、タクヤくんが引っ越す前日。 いつもの原っぱで、目に涙をためながら挨拶をしてくれた。 「ぼくね、本当にみさきちゃんのことがだいすきだよ。おとなになったら、必ずむかえにくるから、 ずっとまっていてくれる?」 「うん。私もタクヤくんが大好きだよ。ずっとまっているからね。」 「じゃ、やくそくだよ。」 そうして私の頬にキスをして、彼が宝物だと言っていた車のプラモデルを私に手渡し走って去っていった。 私が渡した、水晶のビー玉を手に。 あれから、何年たったのだろうか。 たまに想い出す、淡い初恋を。 あの時、一生分の涙を流したと思う。 気付いたときが別れの時。 なんて出来すぎな展開だったのだろう。 子供心にも、運命を恨んだものだった。 人並みに色々恋愛したけれど、どれも長続きせず、振られる一方だった。 ほとんどの原因は、私にあったみたい。 最後の彼が言ったっけ。 「お前は俺に、誰を重ねているんだ?お前は、誰を見ている?・・・・・ そんな自分に、気付いているのか?」 私が、ダレヲミテイル? そこで初めて、原因を知った。 そう言われて頭の中に響いた声は、幼い男の子の声。 『必ずむかえにくるから、ずっとまっていてくれる?』 ・・・タクヤくん・・・だ。 なんてこと。私の心には、初恋の彼がずっと住んでいたんだ。 気付かなかったよ。 そういえば、今まで付き合った人は「タクヤくんが大きくなったらきっと、こんな感じ」、というような人だった。 私、自分の心がまったく分かっていなかったのね。 ごめんなさい。 今まで、散々傷つけてきたのね。 いつまでも、幼稚な私を許してください。 この年になっても、彼を、あの言葉を忘れられなかったダメな私。 きっと、彼はそんな約束したことも忘れている。 私だって、言われるまで分からなかった。 だからもうあそこには住んでいない。 高校の時に引っ越して、大学の時に一人暮らしを始めた。 そのまま、就職して・・・。 最後の恋人と別れてから、そろそろ6年。 ずっと、一人身だ。 タクヤくんのことを自覚してからは、男の人を好きになることはなかった。 周りは「いい年なんだからいい加減にしなさい」と、お見合いやら、コンパの話を持ってくる。 断り続けているけれど、今の生活が結構気に入っている。 仕事も順調で、この間チーフに昇格したし。 心にはいつも、タクヤくんが住んでいる。 日々の潤いは、テレビの中のアイドルだ。 思い返してみると、タクヤくんは結構な美少年だった。 そんな彼に似た美少年が、テレビの中にはわんさかといるのだ。 今のお気に入りは、ベアーズ事務所所属の二人組みユニット「ブルーカラーズ」だ。 元々美少年だったけど、最近はいい男に育ってきている二人で。 神崎潤と、有川忍、共に26歳の歌って踊れるベアーズの看板アイドルだ。 特に忍の方が好きで、どことなくタクヤくんに似ている。 会社の同僚とよく、コンサートにも行っているし。 この二人は、年齢以外はすべて非公開だ。 本名や出身地など、なぜかシークレット。 ベアーズの中でも、こんな事をしているのはこの二人だけだけれども、 好きな気持ちは変わらないから別にかまわないけどね。 昔、体が弱かったけれど、年を取るごとに丈夫になっていき、とうとう明日、30歳を迎えることになった。 明日は土曜日なので、今日仕事が引けたら友人数人が祝ってくれることになっている。 数人は私の「アイドル道」を、何も言わず暖かく見守ってくれている、が。 一人、それはそれこれはこれと、言わんばかりに男を紹介する奴がいる。 今日も来るんだよね〜。 彼女の言い分は、分かる。彼女が正しいのかもしれない。 でも、満足している私がいるから・・・諦めてくれないかな。 約束の時間を過ぎてしまった。 誕生日なんだからさ(周りは知らないけど)、残業は辛いな〜。 部下の失敗をサポートする、それはわかるよ? だけどね。 何故、失敗した奴がさっさと帰っているんだ! 気がついたら、走り書きのメモがおいてあって、奴がいない。 「妻と息子の誕生日なんです、ごめんなさい」 だと? だったら昼間たらたらしないで、さっさか終わらせてれば良かっただろうが! 月曜日覚えてろよ! 仕事に私情を挟むその根性叩き直してやる!!! ・・・飛ばしてもいいなあ・・・。 うふふふ。 |