「・・・かなり、弱いのかな?あ〜、はいはい、一気に飲まないようにね?」
ニコニコしながら、グラスを見つめている真由を見ていると、餌付けをしているような錯覚に陥るのは、なぜだろう?
少しだけグラスに注ぐ。と思ったら、一気に飲まれた。
また、笑顔でグラスを差し出してくる。
「おし!こうなったら、どうなるか最後までいくべ!」
と、叫びながら俺からワインを取り上げ、要が真由に注いでいく。
二人とも、とても楽しそうだ。
急性アルコール中毒にならないようには、気をつけるけどな。
つうか、そこまで、飲ませないし、飲めないだろう。
「二人で盛り上がってんじゃねーよ。俺にもよこせ。」
「ふふふっ。私が注いであげっる〜う〜。」
満面の笑顔で真由が手にするのは、ウイスキーのボトル。・・・いつのまに。
ろれつもかなり、怪しい。
「りゅう〜と〜さんはあ、あやしいから〜、あやしい〜えきたあい〜。ふふふっ。」
グラスにウイスキーを、注いでいく。瓶がグラスに、カチカチとあたる。
かなり、きているらしい。
おい。大丈夫か?
それより、怪しいってなんだよ、怪しいって。
ばれないように、水を多めに飲ませよう。
普通のウイスキーなのに、真由に注いでもらっただけで、こんなにも美味しく感じるものなのか。
おれ、もしかしてかなり、重症?
ん?
いつの間にか、俺の横にいた真由が要の横でウイスキーを注いでいる。
よく見ると、奴の手が真由の手を握っている。というよりも、怪しい動きをし始めた真由を、
抑えているんだろうけども!
か〜な〜め〜!なに、真由の手握ってんだよ!
真由の肩を抱き寄せ、要から引き剥がす。
「お前、なにしてんだよ!誰が、握っていいっていったよ!?ああ?」
「やだ、流ちゃんたら。そんな嫉妬全開で睨まないでよ、自分がまだ握ったことないからってさ。
それより今、もっとすごいことしているのに気付いてるか?」
口に手を当て、どこぞの奥様のように話しかけてくる。その笑顔と、怪しい目つきやめろよ。人格疑われるぞ。
にやにやと見てくる要に、ふと下を見てみると。
俺の腕の中で、胸にもたれかかって真由が眠っていた。
かなり、限界だったみたいだ。
・・マジ・・?
俺はいったいナニヲした・・・?
「もう、流ちゃんのエッチ。」
「う、うるさい!」
「ああ、真由ちゃん起きちゃうぞ。」
「ああ。ごめん。」
「いま、毛布持ってくるから、ソファーに寝かしてやれよ。」
「そうだな。」
要がリビングから、出て行く。
真由をそっと抱き上げ、・・・ビックリした。その軽さに。
きちんと、飯を食っているのだろうか。
それに、なんでこんなに柔らかいんだ。
女の子に触るのは、もちろん初めてではないが、こんなにも柔らかい生き物だったろうか。
俺の感覚がおかしいのか?
ソファーに寝かせ、流れ落ちる髪をなんとなくなでていた。
するするとした髪触りがとても、気持ちいい。
ドアの開く音がする。
「もしかして、俺おじゃま?」
「いいから、早くよこせ。」
毛布をかけてやり、また二人で飲み始めた。
「ところで、お前真由にどれだけ飲ませたんだ?」
「ん?最初のビール一杯に、ワインをグラスで一杯半。それと、ウイスキーをひとなめ、だな。」
「それだけ?」
「それだけ。」
・・・弱いな、本当に。
「でも、良かったよ。」
つい、クスッと笑ってしまった。
「何がだよ。」
要がムスッと、返事をする。お前の話は、訳が分からんという顔をしている。
「もし、俺たちのいない所で初めて酒をのんで、今のように潰れたら、さっさとお持ち帰りされてるだろう?」
「そうだな。そしたら、お前が壊れるもんな。」
「・・・・どういう意味だよ。」
「姫になにかあって、じっとしているお前じゃないだろう?でなきゃ、姪と名前が一緒だからって、
友達になるはずないもんな。流人お前、一目ぼれだろう?やっと茉莉華姉さんから卒業だな。」
「茉莉華は関係ないだろう。」
・・・こいつ、なぜそこで茉莉華がでるんだ。
「確かにいろいろ傷ついてきたけど、内じゃなく、やっと外を見てくれたってことに、感激してるんだよ、俺たちは。」
「俺たち?」
「そ。バンドメンバーね。・・・ばれているから。」
なっ・・・!
いつのまに。
俺が真っ白になっている間に、要が俺のグラスに酒を注ぐ。
「ま、今夜一晩じっくり話を聞かせてもらうからさ。」
何と応えていいのか分からず、思わずグラスの中身を一気に仰いだ。
その時、家の電話が鳴った。
家の番号を知っている人間は、限られている。ためらわずに出た。
「りゅうとぉ、私さ〜いい加減、彼女に会いたいんだけど。いつ会わせてくれるのよ?」
「・・・茉莉華。掛け間違えてたらどうするんだって、いつも言ってるだろう?」
「いつも言ってるけど、短縮だから平気だって。」
「そうかよ。その内って言ってるだろうが。それに、彼女じゃないし。」
「何?まだ、違うの?あんた何してんの!どんくさ!」
うっ・・・!
一瞬言葉が詰まった。確かに・・・。
要が勢いよく、受話器を取った。
「茉莉華姉さん、そんな本当の事言ったらかわいそうでしょうが。」
「あら、要?なにしてんの?」
「噂の姫と三人で酒盛り。」
「相変わらず、オヤジくさいわね、あんたら。ファンが泣くわよ。」
「ほっといてくださいよ。」
「しょうがないわね、私がセッティングしてあげるわよ。代わって。」
微笑みながら俺に受話器を渡す要、恐いって。要を追い払うように、電話に出た。
「あんたの次の休みに、食事するから彼女連れて来なさい。落ち着いたレストランで夕食食べましょう。
いいわね?」
「いいわねって、そんな急に・・・。」
「あんたがトロイからでしょう?チビも連れて行くからね。後日連絡すること、じゃ。」
一方的に切れてしまった。
「どうしたー?」
「食事会することになった。」
「ああ、セッティングするって言ってたからな。」
「止めろよ。」
「無理だろ。」
・・・。
そうだな。相手が悪すぎる。
後ろのソファーで、動く気配がする。
「起きたか?」
返事がない。
「どうした?」
真由は上半身を起こしたままかたまっていた。顔が白いのは気のせいか。
「・・・気持ち悪い・・・吐く・・・」
「ちょっ、ちょっとタンマ。要!」
「・・・マジかよ。」
二人で抱えて、洗面所までダッシュした。

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