私蘿蔔真由(すずしろまゆ)21歳。
只今、バイトが終わった午後9時です。スーパーで、レジバイトをしています。
結構いい時給なので、とても助かります。一応、生活費の半分がかかっているので。
大学終わった午後5時から9時までと、5時から12時まで働きます。
家賃と学費は親が、生活費は自分というのが、大学進学の条件でした。
それでも、かなり恵まれているので、親には感謝です。
最近、ご飯を奢ってくれる友達ができましたし。
本当に、この大学に来てよかったと、日々親に感謝です。
だって、奢ってくれるのがあの、黒川流人(くろかわりゅうと)なのですもの。


              


若手NO,1と呼び声の高いロック歌手で、私の大好きな人です。
なぜ、そのような人と友達かというと、押しかけ友達だからです。
それでも、姪御さんと同じ名前ということで、許可をくださり、今ではご飯を奢ってくれる関係にまで、なりました。

              

バイトが終わって着替えていた時、携帯がなりました。
この着信音は、新城要(しんじょうかなめ)さん。
流人さんのバックバンドのメンバー&幼馴染さんです。
「はい、蘿蔔です。」
「あ、真由ちゃん?俺、要。バイト終わったところでしょう?」
「はい、ちょうど終わったところですよ。魔法みたいですね、こんなぴったりで。」
「そりゃ、俺が真由ちゃん愛してるから。」
「嬉しい、私もですよ〜。」
いつもの、くだけた言葉につい笑ってしまう。
「ちぇっ、また〜。まいいや。それより、これからヒマでしょう?これから、流人んとこにいくから、急いで出てきて。
出口で待ってるから。」
「え?出口って、この店の?」
「そっ。いそいでね〜」
はいっ、と言う前に切れた携帯。ああ〜だから、こんなぴったりに、なるほどね〜と、感心してしまった。
ん?
ていうか、今出口で待っているって言った?いつから!?
つーか、急がなきゃ。


              


急いで出口からでると、社員駐車場の奥に人影が見える。
要さんだ。
車に寄りかかり、タバコを吸っている姿がやはり芸能人、とてもかっこいい。
「すいません、お待たせして。」
走りよりながら、声をかける。
「いいよ、好きで待ってたから。バイト、お疲れさま。じゃ、乗って。」
ドアを開け、吸っていたタバコを灰皿に捨てる。道路には絶対捨てない。
あたりまえだけど、要さんの好ましいところだ。
どういうわけか、車のなかでは吸わないそうだ。
「今日はどうしたんですか?」
「ん?なんかね〜、真由ちゃんに最近会ってないから、元気なくてね〜。で、俺も寂しかったし?つうことで、飲み会でもしようかと。真由ちゃんと飲んだことないからね〜」
車を運転させながら、朗らかに笑う。
飲み会?ていうと、お酒だよねえ。私、飲んだことないんだよねえ。言わないと、まずいかな?
「私も最近会えなかったので、寂しかったです。誘ってくれて、嬉しいです〜。何か買っていくんですか?」
「いや。このまま直だよ。」
バイト先のスーパーから、流人さんのマンションまで車で約30分かかる。
高級住宅街というわけではないけれど、そこそこしっかりした町並みの、いい感じの住宅街に、
そのマンションはある。
一見しただけで、セキュリティー完備の高そうなマンションで。いったいいくらするのか、
想像すらできないのに、その最上階のペントハウスなのだ。
もう、びっくりよ・・・。


             


地下の駐車場に入って行く。もちろん、入るのにもパスがいるわけで・・・。
要さんはもちろん持っています、というより、同居人として登録されているそうで。
マンション1室に対し駐車スペースは二台完備、それプラスお客様用もバッチリ完備されている。
・・・なにか、世界が本当に違います。


              


地下エレベーターに乗り、要さんがパス入力&鍵を開け、またパス。
最上階まで一気に上る。
・・・実は最上階、流人さんだけしか住んでなかったりする。
それなのに、ペントハウス、一人暮らし・・・。
すごくもったいないと思うのは、私が小市民だからだろうか。
要さんの、指紋パスと鍵でドアを開ける。
「流人〜、おまたせ〜真由ちゃん連れてきたぜ〜」
そんな、多きな声で叫ばなくても・・・と、思うのだが、実際そうかもしれない。
本当に広いのだ、この家は。
でも、聞こえたらしい。
「おお〜、おつかれ〜。こっちだ〜」
という、声がする。
久しぶりに聞く生声は、やっぱ感動するわ〜。心地いいな〜。
「じゃ、行こうか。地味に感動してないでさ。」
肩を震わせながら、笑って行ってしまった。
また、私の態度がツボにはまったらしい。
そういわれても、友達とはいえ、ファンなんだもの!
感動するにきまっているじゃないの!
要さんに遅れつつ、靴を脱ぎスリッパに履き替え部屋に入って行く。
幅広の廊下を進んでいくと、約20畳のリビングがある。なにかバカにされているのか?と思うほどの広さで・・・。
要さんは、部屋の真ん中カーペットの上に腰を下ろし、テーブルの上を整えていた。
テーブルをソファーから離しているので、直に座るのだろう。
「真由〜、これ持っていって〜」
キッチンから、流人さんの声がする。慌てて上着を脱ぎ、鞄と一緒に近くのソファーに置き、キッチンに向かった。
キッチンも広いのだけれど、料理であふれていた。
「お久しぶりです〜、すごい量ですね。どれから運びますか?」
「そこにあるの、全部持っていっていいよ。」
「は〜い」
目の前にあるのから、手当たりしだいテーブルへ運んでいく。
運んできたものを、要さんが整える。その時ボソッと一言、言ったのだ。
「・・・真由ちゃんがいてくれてよかったよ。たまには、見ないですみたいもんなあ。」
と。
見ないで?なんのことだろう?この時の独り言の意味を、後に分かることになるのだが。
確かに、たまには・・・と、思うかもしれない。
最後に、流人さんがお酒を持ってきて完了。
「じゃ、のみますか。」
「はい、ついでついで〜」
まだ飲んでいないのに、要さんは機嫌がいい。
・・・やっぱり、言わないといけないよね。
「あの〜いいですか?」
「ん、なに?」
二人が、不思議そうに私を見る。
「あのですねえ、私お酒飲んだことないんです・・・よ。・・・飲まなきゃだめ?」
「え、まじ?」
これは、要さん。
「飲まなきゃだめ。明日学校ないだろう?何事も人生経験。二十歳過ぎてるんだから、変なとこで初体験するより、ここでしなさい。」
「・・・流人さん、すけべオヤジっぽいよ。なんか嫌です、その言い方。」
横で要さん大爆笑。ほんとに苦しそう、涙ながしてるよ。
「もう、流ちゃんてば、ナイスだよそのセリフ。あ〜笑った。変なとこで、前後不覚に陥って大変なことになるより、
ここで体験しといた方がいいな。うん、飲もう。」
「じゃ、まずはビールだな。」
ニヤリと笑う流人さん。
グラスに並々と注がれて、かなりためらってしまう。
「何に乾杯しようか、流人?」
「そうだな。久しぶりに会えた事と、真由のバイトおつかれさんをかねて。乾杯」
「「かんぱ〜い」」
くぴっと、一口。・・・にっがあ。なにこれ?
「あ〜だめだよ、ビールは喉で味わうんだから。一気にぐいっといかないと。」
「いっき?」
「そ、一気。」
う〜ん。ぐいっと飲み込むと。
確かに、喉越しが・・・爽やかで・・・。あんなに苦いのに。さっきより、気にならなかった。
「本当だ。さっきより苦くないよ。」
「だろ〜。真由ちゃん、いけるじゃん。そうこなきゃ楽しくないよね〜」
「すきっ腹に入れると一気にくるから、食べて。」
「は〜い」
あ〜、いつ食べてもおいしいなあ、流人さんのご飯。ん〜幸せ〜。
3人でここしばらくの、お互いの話をかわるがわるしていた。
こういう感覚久しぶりで、とても楽しい。すごく、安心する。
しばらくしたら、流人さんが、
「ワインもあるけど、飲んでみる?」
と、言った。
ワイン抱えて目の前で微笑む流人さん。首の傾げ方が、色っぽい。
あ〜くらくらする。これは絶対、お酒じゃないわ。
「これはねえ、白ワインの甘口。女の子には飲みやすくていいんじゃないかな?」
といいつつ、グラスに注いでくれる。では、一口。
「ほんとだ。甘くておいしい。」
うん。これ好きかも〜。つい、くいっと、グラスを開けてしまう。
「おいおい。大丈夫かよ。」
要さん?何かいった?
「流人さん、おかわり〜」
「・・・もう、ご機嫌だぞ。姫は・・・。」


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