とりあえず吐き気はおさまったようなので、来客用のベッドに寝かした。
ため息がこぼれてしまう。
「もう、飲ませられないな。」
「そうだな。」
「・・・もう、寝るか。おやすみ〜。」
「ああ。」
要は今日泊まっていくので、彼の部屋へ。
俺はもうベッドへ、直行してしまった。
疲れた・・・。
今日久しぶりに、仕事をしたせいか、かなりだるい。
体は疲労を訴えているのに、寝れそうにない。
まあ、そうだよな。好きな女が同じ家の中で寝ているのだ。寝られるはずがない。
抱いた時の柔らかい感触が残っていて、・・・どうにかなりそうだ。
要にやらせれば良かったか?いや、だめだ。俺以外の男に触らせるなんて・・・!
本当に俺がこんな感情を持つなんて、俺を知っている奴は腰を抜かすかもしれないな。
たった一人の女にこんなに、がんじがらめで。
でも、この苦しさが心地いいなんて思っている所で、もう末期かもしれない。
信用できる女は、茉莉華と姪の茉由だけだと思っていた。身内だから、女といっていいのかどうかだが。茉由なんてまだ4歳だし。
4歳なのに、4歳とは思えないあの利発さ。そこらの女とは違う、生まれ持った滲み出る女らしさ、気品、可愛らしさ。なんであんなに、可愛いんだ?俺の姪だから、俺に似て可愛いのは分かるんだが、あの笑顔は反則だろう。
本当に俺の天使だった。あの二人がいたから、大分救われてきたと思う。
そこらの女ども!少しでも茉由の、女らしさ、可愛らしさを見習えと、思う時がかなりある。
昔俺を騙して、他の男に乗り換えたあの女以来、どうしても信用することが出来なかった。
環境が悪すぎたというか、昔から変な女しかよって来なかった。信用以前の問題だったけど。
不思議だよな。一目見たときから、この女は違うって感じたんだ。
男の感なんて、そう当たるものじゃないけど、今回は当ってくれて感謝だな。
真由が目の前に現れた時の衝撃が、今でも忘れられない。
・・どうせ、眠れないのだ。あの時のことを、この思いを込めて詩にしてみるか。
『好きだ』の一言がいえない情けない俺だけど、曲にすれば伝えられるだろうか・・・。



             


んっ・・・。ぼーとする。
白い見たことない、天井だなあ・・・。
なんか、喉がヒリヒリする。
なんでだろう?
・・・・・ところで、ここどこ?
頭が急にはっきりすると、飛び起きてしまった。
白い壁と天井に囲まれた部屋に、センスのよい子洒落た家具が少し置いてあり、私はというと、ダブルサイズの大きなベッドにゆったりと眠っていたらしい。
ここ・・・、流人さんの家だよね?たぶん。
それにしても、広い部屋。
とりあえず、流人さんを探そう。


              


廊下もなんでこんなに、広いんだろう。
こう言ってはなんだけど、芸能人って儲かるのかなあ?たった数年で、こんな部屋に住めるのだもの。
そんな事を考えていたら、流人さんに会った。
私を、起こしに来てくれたらしい。
確かに、昼過ぎでいくらなんでも、寝すぎだろう。
「おっ、もう起きて大丈夫?頭痛くない?」
「おはようございます。はい、大丈夫です。あのー、私どうかしたんですか?昨夜のことよく覚えてないんですけど。」
「あれま。とりあえず、飯にしよう。食える?」
「はい。」


             


広いキッチンに行くと、カウンター席に要さんが一人で座って、朝食を食べていた。
「おー、真由ちゃんおはよう〜。どうよ、具合は?」
「おはようございます。具合はいいです。」
「そりゃ良かった。」
「なぜです?」
「だって、二日酔いは辛いだろう?ならなくて、良かった、だよ。」
あ、そうか。私昨日、お酒飲んだんだ。
だから、記憶がないのかって、私そんなに飲んだの?
「突っ立てないで、座ってご飯食べよう?食べれる?」
「あ、はい。それは大丈夫ですけど・・・。」
「ん?なに?」
「私、昨日どれだけ飲んだんでしょう・・・?よく、覚えてないんですよ。」
要さんはちょっとビックリして、すぐに笑顔に変わる。
「知りたい?」
その深い笑みが、何かを語っているようで・・・。私、何か大変なことをしてしまったのだろうか?
聞くのが、少し恐い。
すると、キッチンの方から笑いながら流人さんの声がした。
「要〜。からかうなよー。大丈夫だよ、それほど飲んでないから。ビール一杯にワイン一杯半、それだけだよ。」
良かった。でも、それだけで記憶ってなくなるものなのかしら?
流人さんが安心させるように笑いながら、プレートを出してくれた。
フレンチトースト、トマトサラダ、カリカリベーコンにオレンジジュース。
う〜ん、ホテルのようだ。
でも、おいしそう。
「流人さんは、食べないんですか?」
「ああ、先に食べたからね。」
私の横に腰掛けながら、コーヒーを運んでくる。
まずは、ご飯ねと、瞳が語っている。
そうですね、じゃ、いただきます。 


             


半分ほど食べた頃に、要さんが何が楽しいのか私を見ながら言った。
「いや〜ほんと、どうなるかと思ったよ。真由ちゃんあんなに、なっちゃうしさ。」
私の手が止まる。
あんな?
「まあそうだねえ、ビックリしたねえ。まさか真由がねえ。」
流人さんも、相槌を打つ。
私は何をしてしまったの!
「要、脅かしすぎだ。大丈夫だよ真由。ただちょっと、ハイになって、ご機嫌さんで笑いだして、
部屋の中ぐるぐる回りながら歌いだして、寝ただけだよ。」
・・・なんですって?
一気に血の気が引いた。友達とはいえ、憧れの黒川流人の前で、そのような醜態をさらけ出してしまったの?
「わ、私、本当にそんなことをしたの?」
流人さん、その笑顔はなに?
「ん?冗談。」
「何処が?」
「うた。」
「他は?」
「本当。あ、あとねえ。」
「まだあるんですか?」
「リバースしたぐらいかな?」
リバース?・・・最低、私。
「真由ちゃん、大丈夫?顔白いよ?」
要さん、そんな心配そうにいっても、肩揺れてるよ。
「流人さん、私もう二度とお酒飲まない。」
ええ、もう二度と!
二度と、こんな醜態さらすものですか!
私は、一大決心をして残りの食事に取り掛かった。


              


だから、流人さんと要さんが頷きあっていたのを、私は知らなかった。
私がこの二人がいないときに、お酒を飲むことのないように、仕向けられていたなんて。
何かあってからでは、遅いからという、理由だそうだ。
私が真実を知るまでは、まだかなりの時間が必要だった。
もちろん、その間一滴も飲むことはなかった。


                         ―――――完―――――

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