何度訪れたか分からない、流人さんの豪華な部屋にお邪魔した。
セキュリティも防音も万全の、高そうなマンションの最上階、しかもペントハウス。
一人暮らしなのに、なんでこんなに部屋が余っているんだろうか。
たまに要さんが泊まりに来るという、要さん専用の部屋まであるのだ。
実は、私の部屋もあったりする。
ここで人生初めてお酒を飲んだ。
ものの見事にひっくり返って、この部屋に運ばれた。
その時要さんもいて、二人をすごく心配させてしまったのだ。
二日酔いにはならなかった。
どれだけ感謝したことか。
それ以来、この部屋は私専用になった。
そして、秘蔵のビデオを見せてくれた。
そう、あの天使たちの成長記録だ。
お前は父親か!と、つっこんでしまった。
「でも、可愛いだろう?あいつらに会う前に見せる事できないから、とても辛かったよ。
どれだけ、辛かったか分かる?あの可愛さを語れないなんて!今が一番可愛いけど、この頃も可愛いだろう?」
せまいテレビ画面の中を縦横無尽に駆け回る、双子の天使は確かに可愛らしかった。
それよりも、たまに聞こえる幼い声、幼い姿の流人さんにドキドキしていた。
今とそれほど変わらないけれど、少しだけ無邪気な流人さんが、その笑顔がまぶしかった。
そういえば要さんといた時、私にとても感謝するって言っていたっけ。
もしかして、毎回このビデオ見せられていたのかな。
・・・この人ならやりそうだ。
「あ、そうだ。今度新曲だすんだ。で、これ。聞いて。」
そう言って渡された一枚のCD。
そこには私がいつも見ていた、ロック歌手黒川流人がいた。
「え?でも、学生の間はこの間出したのでしばらくお休みって・・・?」
「うん、だけど出すことにしたんだ。でも、キャンペーンもくまないしライブもしない。
本当にCMと本だけで、出すんだ。」
「へえ、そういうこともあるんですか。ありがとうございます。帰ったら聞きますね。」
「いや。今聞いて欲しいんだ、ここで。」
「ここで?」
「そう、セットして?」
「・・・うん?」
この間は、恥ずかしいからと言って、もらうだけだったのに、変なの。
当人見ながら聞くっていうのも、なかなか贅沢でよいかな。
CDをセットして、再生。
あ、久しぶりのバラードだ。私がほれ込んだバラード。



    いつか僕の前に現れると信じていた この長い年月 本当に長かった
    いきなり僕の視界に現れた君 紡ぐ言葉が 柔らかい笑顔が すべて眩しかった
    本当だね 君が現れてから世界に色がついた 
    ただ 闇雲に突っ走っていた 景色など見ていなかった
    信じること 愛すること すべて君が教えてくれた
    ありのままを受け入れる 僕をすべて受け入れてくれた
    今 ここに告白するよ 君を心から 愛していると
    僕の前に現れた君 もう二度と 離さないと 君に誓う



はーっ。素敵。よいなあ。
なにか切なくて、心地いい。
しばらく浸っていたら、流人さんの様子がおかしい。
あ、感想いってないわ。
「すごい、素敵だったわ。元々バラード好きだけど、なにか感情移入してしまって。
すごく感動してるの。でも、いつもと感じが違いますね。いい意味でよ?こういうのも、私好きです。」
流人さんがすごく真剣な瞳をして、私を見る。
「この曲、真由に会ってから思ったことを、作詞したんだ。俺の気持ちを込めたんだけど。
真由はどうだろう?」
「どうだろうって・・・。」
いいなあと思ったし。
この君になりたいなあとも。
確か愛してるって、歌っていたような・・・。
全身ボンッと真っ赤になった、と思う。
流人さんが、私のことを好き?嘘でしょう?
何度、その夢を見たことか。
「そっそりゃ、友だちになりたいぐらいだから、・・・好き・・・だけど・・・」
「それって、友だちのままでいいの?・・・それとも・・・?」
「うっ・・・。」
真っ赤になったまま動けない。
流人さんの瞳から、目をそらすこともできない。
でも、顔がこっちに近づいてくるし。
どうしよう。
「逃げなければこのままするよ。それが答えだと思っていいんだろう?」
こんな間近で言われても、あ、睫毛がすごく長いなんて思っているうちに、触れるだけのキス。
そのまま、抱きしめられた。流人さんの体温がとても温かい。
「やっと、この手で抱きしめられるんだね、真由。長かったよ、本当に。
あ、それから、恋人になったんだから、敬語禁止ね?」
「えっ?それは・・・。」
「でないとこの口、ふさぐぞ。」
俺の口で。
うっ、おとなしくしてよう。
別れ際の茉莉華さんの笑顔が、思い浮かぶ。
もしかして、こうなる事を知っていた?私の気持ちも最初からお見通し?
ああ、流人さん。
あなたの微笑が茉莉華さんに重なる。
お願いだから流人さん、あなたは天使にならないで。
天使は茉莉華さんだけで、もう十分です。


                         ―――――完―――――

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