ロックスター・黒川流人(くろかわりゅうと)。 茶髪のさらさら髪に切れ長の瞳、きりりとひきしまった唇、白磁のように白い肌。 大きく繊細な手でギターを自分の体のようにあやつり、その唇から流れる声は心地よい低音ヴォイス。 180cmの均整のとれた肢体。まさにビジュアル系。 若干21歳で、芸能暦5年。そう、16歳でデビュー。信じられなかったわ。 天才ギターリストとか、さんざん言われていたけど。 でも当時から、とても声が色っぽかったの。 声変わりまえでそれで、変わった後もとっても色っぽいのよ。 曲を聴いているとね、耳元で歌われているような気になって、ラヴソングなんて本当に最高よ! 心ごと奪われていきそうになる。 まあ、皆そう思うんだけど。 それでいて、顔良し、背良し、楽器良し(ピアノもひけるのよ)ときたら、ファンになるな!というのが、 無理な話でしょう。 不思議(?)なことに、男性ファンも多いいのよね。 そんな彼が、私と同じ大学に通う学生だったなんて、これはもう、昔読んだ漫画じゃないけど 友だちになるしかないでしょう。 がんばれ、わたし! 現実って、こんなものよね。 決意してから半年も経つのに、声をかけるどころか姿も見つけられない。 ・・・大丈夫よ、同じ大学の空気吸っているんだもの、いつかは見つかるさ! なんて、そろそろ自分を騙せないかも。 友だちの真紀ちゃんにこの話をしたら、笑われたわ。 ええ、思いっきり。 「ムリムリ、相手は芸能人だよ?相手にされるわけないじゃないの、やめときな。 それにね、女嫌いという噂もあるんだよ、知ってた?遠くで見てる、それが一番だよ。」 ・・・あんな話聞かなきゃよかった。私のためだとは思うけどさ。 講義も無事終わりこのまま家に帰るのもなにか辛いので、食堂によって私の大好きな カプチーノ飲んでいこうと思い足を向けたら、人気のない食堂の端っこに当人がいた。 見た感じでは声をかけても大丈夫な雰囲気だったので、近づいていく。 彼は無造作に足を組み椅子に腰掛けながら、吸いかけのタバコを片手に持ち ぼーとしているという、感じだった。 そんななんでもない姿が絵になる、声をかけるのをためらってしまいそう。 近づく私に気づいたのか視線が私に向いている。テーブルを挟んで正面に立った。 「こんにちは。いま、よろしいですか。」 声が震えているのは、気のせいじゃないと思う。 話かけられると思っていなかったみたいで、驚いた風にうなずいてくれた。 「あの、私あなたのファンなんですけど、それで、ええと、友だちになってもらえませんか?」 言った。 彼は胡散臭げに私をみて、一言。 「あんた、名前は?」 「あ!ごめんなさい。私3年の蘿蔔真由(すずしろまゆ)といいます」 「ふ〜ん、いいよ。」 「え?」 「だから、友だち。」 「あ・・・ありがとうございます!すごい、嬉しいです。じゃ、じゃあ構内で見かけたら挨拶してもいいですか?」 「友だちなんだろう?じゃ、いいんじゃないの。」 「そういえばそうですね。私、なにいってるんだろう。」 すごくあきれた感じで笑いながら、言ってくれた。 それがすごく自然な笑顔だったので、私もほっとしたのか笑ってしまった。 「じゃ、俺これから仕事あるから。」 そう言って、タバコを消しながら椅子から立つ。やっぱり、背高いなあ。 「お気をつけて。がんばってくださいね。」 ふっと笑ってうなずき、行ってしまった。 あ〜かっこよかった。 すごく緊張したし、まさかいいよと、言ってくれるとは本当は思ってなかったから、すごく嬉しい。 間近で聞く声って、こんなにもかっこいいんだ。 カプチーノを飲みながら、流人さんの残していった吸殻を見ながらにまにましていた。 「あんた度胸あるねえ。」 いきなり声をかけられビックリしてその声の方を見る。 そこには流人さんと同じくらいかっこいい男の人がいた。 「あ、悪い。俺、流人のダチの新城要(しんじょうかなめ)ていうの、よろしくね?」 笑顔が可愛い男の人って、本当にいるんだ・・・。 「わ、私蘿蔔真由といいます。先ほど黒川さんとお友だちになってもらいました。」 「・・・なるほどね。」 「何がですか?」 「流人がOKしたわけ。真由ちゃんだって、OKしてもらえるとは思ってなかったでしょ?」 確かに。 うんと、うなずく。 「流人の天使と同じ名前なんだよ、真由ちゃん。」 「そうなんですか?黒川さんの大事な方と同じ名前なんて、嬉しいですね。」 それで、OKだったんだ。でも、とっても嬉しい。ついつい頬がゆるんでしまう。 だって、私にとっても天使じゃない!きっかけをありがとう、天使さん! 「あんた、気に入ったよ真由ちゃん。俺とも友だちになってね。じゃ、行こうか。」 私の手を取り、立ち上がらせながらそんなことを言う。 「行くって?」 「流人の仕事先♪」 ・・・え? 私の手を離さず、どんどん歩いて行ってしまう。 転ばないように、ついていくのが大変だった。 何を聞いても、「大丈夫、大丈夫。」と笑いながら返されてしまう。 迷惑になるといっても、答えは一緒だった。 それよりも先程会ったばかりの男の人について行くなんて、大丈夫なのだろうか。 手を離してもらえないから、答えは一つなのだが。 大学の駐車場に止めてある、ある一台に寄っていく。 運転席には大人の綺麗な女性が乗っていた。 「要、遅かったじゃない。ん、その娘は?」 「ん?流人のダチ。」 「あら珍しい事もあるのね。とりあえず、早く乗って。時間ないわよ。」 要さんと共に、車の後部座席に乗り込む。車は、振動を感じさせずに発進した。 この運転席にいる女性は、橘蓉子(たちばなようこ)さんというらしい。 笑顔のとても素敵な人で、仕事がとても出来そう。 とても気さくなお姉さんて感じ。 要さんのマネージャーさんなんですって。 そう要さんも、ロック歌手だった。 ごめんなさい、私知らなかったの。 だから、こんなにかっこいいんだすごい納得してしまった。 でもね、知らなくて当然。 これからデビューするんですって。 今までは、流人さんのバックバンドのギターさんだったけど、あらためてひとり立ちするんですって。 今向かっている所は、東京郊外にあるスタジオ。 普段、流人さんもここを使っているそうで、そう思うとひとしお感慨深いものがあるわ。 本当にいいのかな〜、ここまで来ちゃったけど。 スタジオに到着。 橘さんが、車を駐車場に止めている間に、要さんに連れられてある扉をくぐる。 「おせーぞ要!」 いきなり怒鳴られて、すごくビックリした。 「悪い悪い、でもお土産あるからこれで許して?じゃ〜ん、流人のダチの真由ちゃんで〜すっ!」 言うと同時に背中を押され皆の前に2、3歩出る。 そこには4人男の人がいた。 あ、流人さんもいる。4人の視線が一気に集中する。 顔が赤くなっていくのが手に取るように分かって、穴があったら入りたかった。 要さんはニコニコ笑っているだけ。 皆の視線がとても痛い。 場違いな私にはどうすればいいのか、ほとほと困ってしまった。 「あ、真由。」 そう言ったのは、流人さん。 その一言で他の皆の緊張が解けた。 さっき会ったばかりだが、私個人を認識してくれるのはとても嬉しいものだから、つい言ってしまった。 「はい、先ほどお友だちの許可を得ました、蘿蔔真由です。」 とたん、要さんが爆笑して、それに釣られるように他の人たちも笑い出した。 何かおかしな事を言っただろうか。 目にたまった涙を拭きながら要さんが言う。 「俺、真由ちゃん気に入ったよ。だから、連れてきちゃった。」 「要が気に入ったなら大丈夫だろ。俺、中川達也(なかがわたつや)流人のバックのドラムね。」 一番体格のいい強面なお兄さんが「さっきはビックリさせて悪かったな。」と握手をしながら挨拶してくれた。 先程要さんを怒鳴ったのはこの人だったみたい。でもすごく、いい人そう。 「僕はキーボードの長谷川秀(はせがわしゅう)、よろしく。」 そう言って顔の横で手を振ってくれたのは、長髪がにあうさわやか笑顔のお兄さん。 「ベースの田所和宏(たどころかずひろ)。」 声だけ聞くと不機嫌そうだけど、笑顔で挨拶してくれたのは一番アイドルな顔をしていた。 「どうせ要が無理やり連れてきたんだろう。悪いな。終わったら送っていくからそこで座って待っててくれる?」 そう言ってスタジオの端にあるソファーに案内してくれた流人さん。 今日は練習だけだから、と私のことを気遣ってくれる。 こちらこそご迷惑をかけてしまってと、恐縮しっぱなしだった。 「友だちだろう。だからいいんだ。」 「ありがとうございます。」 笑顔がとても嬉しい。テレビで見るよりとても自然だった。 ソファーに座って、迷惑にならないように色々観察していると流人さんと目があった。 ビックリしていると、クスッと笑われてしまった。 その後はおとなしく、ずっと練習を見ていた。 とてもかっこ良かった。 気さくな会話をしている所、何度も何度も同じ所を弾く所、何もかもが夢のようで、私の大切な宝物になった一日だった。 帰りは家まで送ってくれると流人さんは言ってくれたが、流石にそれは辞退して最寄りの駅までにしてもらった。 すごく優しくしてもらったけど、これって「友だち=ファンは大事にするよ」と言われている様な気がした。 こんなので本当に、友だちになれるのかな?ダメダメ、まだまだこれからよ、がんばるぞ! |